
最近、職場のハラスメントに関する深刻な話を、立て続けに聞く機会がありました。
一つ目は、ある福祉施設の話です。
現場を任されている責任者や幹部が、部下を好き嫌いで扱う。自分の意見に従う人はかわいがる一方、正論であっても反対意見を言ったり、言う通りにしなかったりする人には厳しくあたり、評価や配置にもそれが反映される。
経営者は離れた本部にいて、現場の状況を直接見ることはほとんどありません。責任者から上がってくる報告を聞いている限り、大きな問題はないように見えています。
二つ目は、ある飲食店です。
店長がパートの女性に繰り返し交際を迫るようになりました。
女性は断りましたが、その後も行為は続き、仕事上でも不利益な扱いを受けるようになったといいます。
周囲のスタッフも状況は知っています。しかし、店長には誰も何も言えない。
オーナーも店の運営を店長に任せ、現場で何が起きているのかにはほとんど関心を持っていませんでした。
結局、その女性は心身の調子を崩し、店を辞めざるを得なくなりました。
三つ目は、ある大手企業の専門部門です。
その部門は新しく作られた組織で、部門長はその領域の専門家として外部から迎えられた人でした。
ところが、部下には明確な指示を出さず、方針も頻繁に変える。その一方で、部下が出してきた仕事には厳しくダメ出しをする。
その結果、何人もの社員が休職したり、退職したりしていました。
担当役員はその分野の専門家ではありません。専門的なことは部門長に任せるしかなく、次第に部門の中で何が起きているのか分からなくなっていました。
三つの話は、それぞれ内容が違います。
しかし、共通していることがあります。
現場を任された人に権限が集中し、その中で何が起きているのかが経営者から見えなくなっている。
つまり、組織がブラックボックスになっているのです。
権限を持つと、人は変わる
なぜ、こうしたことが起きるのでしょうか。
必ずしも最初から問題のある人だったとは思いません。
マネージャーになると、それまで持っていなかった権限を持ちます。
仕事を指示する。仕事を割り振る。人を評価する。場合によっては、昇給や昇進にも影響を与える。
本来、それは組織として成果を出すために、会社から預けられた権限です。
ところが、いつの間にか「自分の言うことを聞かせるための力」と勘違いしてしまうことがあります。
しかも、権限を持つと周囲は反論しにくくなります。
部下が何も言わない。
すると本人は、「みんな納得している」「自分の判断は正しい」と思うようになる。
反対意見を言う人がいれば、「協調性がない」「素直ではない」と感じる。その人を低く評価すれば、さらに反対する人はいなくなる。
こうして、
小さな組織の中の「独裁者」が生まれます。
以前、「部下を使えないマネージャー」というコラムを書きましたが、実はこれも同じ問題なのです。
どちらも、マネージャーとは、人を通じて成果を出す仕事であるということを十分に理解しないまま、マネージャーになっている。
特に小さな会社では、何人もの候補から適性のある人を選べるとは限りません。
「この人がマネージャーに向いているから」ではなく、「この人にやってもらうしかない」ということもあります。
だから、「良い人を選ぶ」は解決策とはいえません。
任せても、ブラックボックスにはしない
では、どうすればよいのでしょうか。
マネージャー研修を増やせば解決する、とは思いません。
かといって、厳しく監視すれば、ただでさえ負担の大きいマネージャーの成り手がいなくなってしまいます。
必要なのは、マネージャーを支援し、ブラックボックス化を防ぐ仕組みです。
例えば、人事評価です。
若手、中堅、リーダー、マネージャー。それぞれに、「会社として」何を期待するのかを経営者が明確にする。
その基準に沿ってマネージャーが評価し、評価会議で経営者や上位者が、
「なぜ、この評価なのか」
「期待する水準と比べて何が足りないのか」
「本人にはそれを伝えていたのか」
と確認する。
現場だけに任せない。
こうすれば、好き嫌いだけで評価することは難しくなります。
そして評価会議は、社員を評価するだけの場ではありません。
社員を評価しているマネージャーのマネジメントを見る場でもあります。
加えて、特定の部署だけ退職や休職が続いていないかを見る。
退職した人から話を聞く。時にはマネージャーを介さず現場の状況を知る。
誰かが勇気を出して告発するまで待つのではなく、
普段の経営の仕組みの中で異常に気づけるようにしておくことが大切です。
経営者自身も例外ではない
もちろん、経営者自身が同じような権力の使い方をしていれば、こうした仕組みも機能しません。
その場合に考えていただきたいのは、「社員に優しくしましょう」という話ではなく、それによって人が辞め、残った人も何も言わなくなり、悪い情報が上がらなくなるという「経営上の損失」です。
会社が大きくなれば、経営者は人に任せなければなりません。
しかし、任せることと、放置することは違います。
特に中小企業は、ネームバリューや給与などの条件で、大企業と同じように人材を集めることは簡単ではありません。
だからこそ、
安心して意見が言える。公平に評価される。理不尽なことがあれば会社が気づいてくれる。
そんな働きやすい職場をつくることは、単なる福利厚生でも、ハラスメント対策でもありません。
働きやすい職場環境をつくることは、経営戦略そのものです。
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