コラム:「残念な」オイスターバー ~ お客さんが変わった時、何を変えるべきか?

実は、私は無類のオイスター好きです。

特に生牡蠣。

一口に生牡蠣といっても、
産地によって大きさも味も違います。
クリーミーなものもあれば、
さっぱりしたものもあります。
同じ産地でも季節によって味が変わります。

海外に行っても、
オイスターバーを見つけると、
つい入ってしまいます。

先日、
昔よく通っていた都内のオイスターバーに、
久しぶりに行きました。

種類、質、価格、店の雰囲気とも最高で、
私のお気に入りの店でした。

ところが、
少し「残念な」店になってしまっていました。

牡蠣がおいしくなくなったわけではありません。

問題は、メニューです。

しゃぶしゃぶがあります。
焼き鳥もあります。
牡蠣とはあまり関係のない料理が、
ずいぶん増えていました。

以前はワイン中心だった飲み物も、
日本酒、焼酎まであります。

「ここは何屋なんだろう?」

以前は、明らかに「オイスターバー」でした。

なぜ、こんなことになってしまったか。

今回は、このオイスターバーを題材に、
少しケーススタディをしてみたいと思います。

 

店は変わらない。お客さんが変わった

この店が入っているのは、
都内の繁華街にある有名ファッションビル。

以前は、
ファッションやカルチャーに感度の高い人たちが
集まる場所という印象が強くありました。

ところが久しぶりに行ってみると、
ポケモン、少年ジャンプ、ゲーム、アニメ、
キャラクター関連の店舗の存在感が、
かなり大きくなっています。

そして、館内には
外国人旅行客がとても多くなっていました。

商業施設としては、
合理的な戦略だと思います。

日本のアニメやゲームは世界的なコンテンツ。
訪日外国人が増えるなか、
それらを目的に人を集めることができます。

しかし、
以前から入っている飲食店からすると
事情が違います。

店は同じ場所にあります。

しかし、
店の前を歩いている人が変わってしまった。

以前は、
オイスターとワインを楽しむ日本人
が店を目指して来ていました。

今は、アニメやゲームなどを目的に訪れた
外国人旅行客が、ついでに食事をしています。

店が何かを間違えたわけではありません。

市場の方が変わってしまったのです。

 

そして、しゃぶしゃぶと焼き鳥

もちろん、
店も新しいお客さんに対応しようとします。

外国人旅行客にも入ってもらいたい。

牡蠣を食べない人もいます。
家族で来れば、
子どもが牡蠣を食べないこともあるでしょう。

だったら、
外国人にも分かりやすい日本料理を増やそう。

しゃぶしゃぶ。焼き鳥。すし。

一つひとつの判断には、
それなりの理由があったのだと思います。

「お客様のニーズに応える」という意味では、
むしろ正しい対応にも見えます。

ところが、
出来上がった店を見ると中途半端なのです。

牡蠣好きにとっては、
以前ほどオイスターバーとしての魅力を感じません。

一方、
しゃぶしゃぶや焼き鳥を食べたいのであれば、
それを専門にしている店はいくらでもあります。

オイスター好きにも強く刺さらない。
外国人旅行客にも強く刺さらない。

新しいお客さんに合わせた結果、
オイスターバーという店の輪郭までぼやけてしまいました。

 

お客さんが変わったら、何を変えるべきか

では、
この店はどうすればよかったのでしょうか。

大きく三つの選択肢があると思います。

 

一つ目は、「今の商売を磨く」ことです。

よりおいしい牡蠣を仕入れる。産地を増やす。ワインを充実させる。

ただし、今回の問題は牡蠣がおいしくなくなったことではありません。

そこにいるお客さん自体が変わっています。

以前の客層を前提にオイスターバーを磨いても、
そのお客さんが減っているのであれば
この手は効果的とはいえません。

 

二つ目は、
「強みを残して、コンセプトを変える」ことです。

牡蠣という強みは残す。

しかし、
「日本人がオイスターとワインを楽しむ店」
というコンセプトは変え、
今そこにいる
「外国人旅行客にも楽しんでもらえる店」
に作り直します。

 

三つ目は、
「業態そのものを変える、あるいは撤退する」
ことです。

現在の客層に
牡蠣という商材自体が合わないのであれば、
別の店にする。
オイスターバーを続けるなら、
それに合った場所へ移ることも考えられます。

 

では、この店はどれを選んだのでしょうか。

私には、
一つ目と二つ目の間で止まってしまったように見えます。

オイスターバーという従来コンセプトは残したまま、
新しい客層に対応するため、
しゃぶしゃぶや焼き鳥を加えました。

つまり、

コンセプトは変えずに、
商品だけを、新しいお客さんの求めに応じて
増やした。

 

私だったらどうするか?

もちろん、外から見ているだけなので、
実際の経営状況や契約条件は分かりません。

そのうえで私なら、
二つ目の「コンセプト変更」を選びます。

牡蠣という強みは残しながら、
外国人旅行客にも楽しんでもらえる
オイスターバーに作り直します。

牡蠣は、
アメリカ、オーストラリア、フランス、アジア
など、世界のかなり広い地域で食べられている。

ならば、日本各地の牡蠣を楽しんでもらう。

北海道、三陸、瀬戸内、九州。

地図を見ながら、
日本を旅するように牡蠣を食べ比べてもらう
のも面白そうです。

生牡蠣が苦手な人には、
グリルドオイスターや牡蠣フライ。

もっと気軽に食べてもらうなら、
オイスターバーガーや牡蠣のパスタ。

日本酒とのペアリングも考えられます。

つまり、

「外国人に人気の料理を増やす」のではなく、
「日本の牡蠣を、外国人のお客さんが楽しめる形に変える」。

商品や見せ方は変わります。

しかし、「牡蠣を楽しむ店」という強みは残ります。

もちろん、牡蠣を食べられない同行者のために、
別の料理を数品用意してもいいでしょう。

ただし、

「牡蠣を食べられない人のメニューもある」
というのと、「何でもある」は違います。

 

一つひとつは正しくても、全体では間違うことがある

この話は、飲食店に限ったことではありません。

長く商売をしていれば、市場は変わります。

顧客も競合も技術も変わります。
かつて市場とぴったり合っていた自社の強みが、
いつの間にか合わなくなることもあります。

そのときに怖いのが、
目の前の顧客の声に一つずつ対応することです。

「これもできますか?」

「できます」

「こんなサービスも欲しい」

「では、それもやりましょう」

一つひとつの判断は、間違っていません。

しかし、それを繰り返した結果、

「いろいろできます。
でも、何が得意な会社なのか分かりません」

という会社ができあがります。

市場が変わったとき、
今の商品やサービスを磨くだけでは足りない
ことがあります。

だからといって、
新しい顧客が欲しがるものを次々と追加すれば
いいわけでもありません。

必要なのは、

今の市場に合わせて、自分たちは何屋になるのかを、
もう一度考えること。

何を変えるのか。

何を変えないのか。

今までの強みのどこを残し、
どこを新しい顧客に合わせるのか。

市場は変わります。

そのたびに何でも顧客に合わせるのではなく、
市場と自分たちの強みが、
もう一度噛み合う形を考える。

久しぶりに訪れたお気に入りのオイスターバーで、
そんなことを考えました。

 

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