
「当社商品は、在庫最適化ソリューションです」
「うちは、看板通りの税理士事務所ですよ」
「うちのエンジニアは技術では負けません」
マネージャーの方々に、彼らのビジネスの概要を伺うと、上のような説明をしてくださいます。
どれも間違ってはいません。
自社のサービスや強みを語る言葉として、
自然な表現だと思います。
しかし、私はいつも心の中で少し引っかかるのです。それは本当に「商品」なのかと。
今回は、企業が見落としがちな
「本当の商品とは何か?」について、
少し立ち止まって考えてみたいと思います。
そしてこの考え方は、実は“企業”だけでなく、
個人個人の”ビジネスパーソン”の
パーソナルブランディングにも通じるものです。
企業における価値ある「商品」
1)ダメな例:機能・性能中心で考える会社
たとえば、あるシステム会社が
「うちは販売管理システムを作っています」
と言います。
そして続けて、「最新のAIを搭載しています」
「XX機能が充実しています」
といった、機能や性能をアピールします。
確かにそれは立派な商品説明です。
しかし、そのままの発想では、残念ながら機能競争や価格競争に巻き込まれてしまいます。
なぜなら、顧客が本当に欲しいのは“システム”ではないからです。
顧客が求めているのは
「請求ミスをなくしたい」
「月末処理を早く終えたい」
「在庫を見える化したい」といった、
“課題の解決”なのです。
つまり、「どんな機能を持っているか」
ではなく、「どんな問題を解決できるか」。
そこにフォーカスできていない企業は、
どんなに優れた技術を持っていても、
すぐに競合に追いつかれてしまいます。
似たような機能・価格の商品が次々と登場する時代だからこそ、
「何を解決するのか」という視点が、
ビジネスの成否を分けます。
2)良い例:課題解決としての商品
一方で、こんな会社もあります。
「私たちの商品は“欠品ゼロの店舗運営を実現する仕組み”です」
同じ在庫管理の領域でも、まったく違うアプローチです。
この会社は“システム”ではなく、“顧客の成果”を売っています。
そのため、提案の仕方も自然と変わります。
機能や仕様の説明をするのではなく、まず現場の課題を起点に話を始めます。
「在庫データの更新が遅れるのは、どの段階で発生していますか?」
「現場の担当者が入力を嫌がるのは、どんな理由からでしょうか?」
こうした対話を重ねることで、顧客の“本当の課題”を明らかにし、
その課題を解決する仕組みを設計していくのです。
結果として、顧客満足度は上がり、
価格ではなく「価値」で選ばれるように
なります。
同じ技術を使っていても、
「課題解決」を軸に据えた瞬間、
その商品はまったく別の意味を持ち始めます。
3)顧客の本当の期待
顧客が本当に欲しいのは、商品ではなく「変化」です。
会計ソフトを買う人は、「入力作業」をしたいのではありません。
「経理の負担を減らしたい」
「ミスをなくしたい」
「経営判断を早くしたい」のです。
美容室に行く人も、「カットそのもの」を買っているわけではありません。
「印象が良くなる自分」や「気分がリフレッシュした自分」を買っているのです。
この“変化”という視点を持てるかどうかが、
企業の本当の競争力になります。
営業トークも、広告コピーも、すべてが変わります。
“何を作るか”ではなく、
“誰のどんな課題をどう変えるか”。
この問いを軸に据えることが、
持続的な成長を実現する第一歩なのです。
「個人」の商品価値
この考え方は、実は個人のキャリアにもそのまま当てはまります。
たとえば、エンジニアが「私はJavaが得意です」と言う。
もちろん、それは素晴らしいスキルです。
しかし、それは「道具」であって「商品」ではありません。
採用する側が求めているのは、「Javaが書ける人」ではなく、
「そのスキルを使って業務を効率化できる人」
「新しい価値を生み出せる人」です。
つまり、個人にとっての商品とは、自分が他人の課題を
どう解決できるかという点にあるのです。
たとえば、こう言い換えてみるとどうでしょうか。
「私は、コンバージョン率を上げるUI設計が得意です。」
これなら、単なるスキルの説明ではなく、“成果を生む力”の提示になっています。
「それはエンジニアの仕事ではない」と感じる人もいるかもしれません。
しかし、エンジニアも、
ビジネスパーソンである限り、この“課題解決”の
視点から逃れることはできません。
同じことは、他の職種にも言えます。
営業職なら、「商談数を増やす人」ではなく、「成約率を上げる人」。
デザイナーなら、「デザインを作る人」ではなく、
「顧客の理解を促すビジュアルを作る人」。
職種に関係なく、“自分という商品”を「課題解決」として定義できる人は、
どんな時代でも求められ続けます。
さらに、この発想はキャリア選択にも大きな影響を与えます。
「このスキルが活かせる仕事」という探し方から、
「この課題を解決できる場所」という探し方に変わる。
そうすると、仕事の目的が明確になり、
自分の成長も市場価値も自然と上がっていきます。
商品とは、顧客の課題解決である
企業でも、個人でも、
本当の商品とは「自分が解決できる課題」です。
そして、それをどれだけ明確に言語化できるかで、成果も評価も大きく変わります。
「何を作るか」「何を売るか」ではなく、
「誰の、どんな課題を、どう解決するのか」。
この問いを自分自身に問い続けること。
それが、企業にとっても、個人にとっても、
長く選ばれ続けるための唯一の道だと思います。
「ありきたりな内容」だと思われましたか?
その通りです。
しかし、あなたの会社、あなた自身、これができていますか?
HPや履歴書に書いてありますか? 普段の提案活動では、
どんな説明をしていますか?
改めて振り返ってみてはいかがでしょうか。
