コラム:「人の行動を変える」7つの手段

「便利になるのはわかるけど、今のやり方で十分です」
「また新しいツールですか? どうせすぐ変わるんでしょ」

あなたは経営者、あるいはチームを率いるリーダーだとしましょう。
最近、AIツールを使った新しい仕事のやり方を社内に広げたいと思っている。

ところが・・・・社員はなかなか乗ってこない。

社員から冒頭の言葉を投げかけられたら、あなたならどう返しますか?
ここで適切に対応できなければ、新しい取り組みは根付かずに消えていきます。

実は、人の行動を変える手段は昔から研究されていますが、網羅的に理解している経営者は少ないかもしれません。今回は「行動を変える7つの手段」を、実際の現場でよくあるシーンを交えながら整理します。

 

7つの手段

1.説明/説得 ~「一度では動かない」

もっとも基本となるのは「説明して、納得してもらう」ことです。

新しい仕組みを導入する背景、目的、効果を筋道立てて説明する。ときには反論を受け止めて議論し、改善案を一緒につくる。理想は「心から納得して、自ら進んで行動してくれる」状態です。

しかし、一度や二度説明したくらいで人は動きません。
ある企業のリーダーは、ITツール導入について3回全体説明会を行いました。それでも現場は「よく分からない」と腰が重い。結局、個別面談を何度も重ねてようやく「なるほど、やってみますか」と一部の人が動き始めました。

行動変容に必要なのは論理だけではなく、繰り返し繰り返し伝える粘り強さです。

 

2.仕組化 ~「ルールには逃げ道がある」

説明だけで足りないときは、仕組みを使います。

「AIツールを使わないと発注が通らない」「チェックプロセスを通らないと出荷できない」。こうした仕組みがあれば、行動は担保できます。

ただし注意も必要です。納得していない人は必ず抜け道を探します。
あるメーカーでは、必須のシステム入力を形式的に済ませ、実作業は従来のExcelで回す社員が続出しました。結果、二重管理で余計に混乱したのです。

仕組みは強力ですが、それ単体では不完全。説明と納得を伴わなければ「イタチごっこ」に終わります。

 

3.命令/強制 ~「命じれば動く、しかし…」

経営者や上司の権限を使って「やれ」と命じる。これは最も分かりやすい”伝統的”手段です。

短期的には間違いなく効果があります。しかしその実態は「仕方なくやっている」だけ。
ある中小企業の社長が「今日から絶対にこのツールを使え!」と号令をかけました。結果はどうなったか? 監視されている場面では使うのに、裏では旧来のやり方を続け、報告だけは新システムに入力するという形骸化が起きました。

命令で動かせば即効性はあります。ただし、その副作用は「指示待ち組織」「面従腹背社員」につながることです。

 

4.賞罰 ~「飴と鞭は長持ちしない」

人はご褒美や罰に弱い。AIツールを使いこなした人に表彰やボーナスを与える。逆に、使わなかった人にはペナルティを課す。

確かに効きます。ですが、長続きするでしょうか?

「ご褒美がもらえるからやる」という動機は、慣れると効きません。
「罰が怖いからやる」という行動は、不正や隠蔽につながります。

また、評価ルールが曖昧なまま賞罰を行うと、組織の公正さを阻害し、組織の崩壊さえ引き起こす可能性があります。

賞罰は、即効性はあるが、副作用の大きい麻薬のようなものと理解すべきです。

 

5.比較 ~「競争は人を動かす、しかし毒にもなる」

人間は「自分だけ劣っている」状況に耐えられません。

ある会社では「部門ごとのAI活用率」を毎月ランキング形式で発表しました。すると、特に報酬をつけなくても「他の部署に負けたくない」と利用率が上がっていきました。

しかし、やりすぎると人間関係が壊れます。部門間で「うちが勝つために情報を共有しない」という逆効果まで出てきます。

比較は強力な手段ですが、組織内の人間関係や雰囲気が良く、「健全な競争」が存在することが前提です。

 

6.洗脳 ~「理解しておくべき禁じ手」

説得に似ていますが、大きく違うのは「外部の情報を遮断する」ことです。

超数字指向の営業会社などでは、仕事を取ってくるまで休むな、といった宗教的とまで言える手法をいまだ用いている会社があります。

スタートアップなどでも似たことはよく見られます。お祭りのような雰囲気の中で「俺たちは世界を変える」と全員が信じ込み、昼夜問わず働くことを求められ、受け入れる。本人たちは疑問を持たないが、外から見ると「危うい熱狂」に映ります。

もちろん倫理的に推奨されるものではありません。ただし現実として存在する。だからこそ、理解しておくべき“禁じ手”です。

 

7.体験 ~「人は体験の生き物」

最後は体験です。

「まずは一部門で試してみよう」と小さな範囲で体験させる。そこでうまくいけば自信になり、失敗すれば学びになります。

ある営業チームは「顧客対応の一部だけAIチャットを試す」取り組みをしました。最初は懐疑的だったメンバーも「これ、想像以上に便利だな」と気づき、自分から使うようになりました。

または、これまでのやり方でやって顧客からクレームを受ける体験をさせる、というショック療法もあります。いつも使える手段ではありませんが、人は成功よりも、失敗から学ぶことの方が多いともいわれます。

人は頭で理解するよりも、体験から納得する方が圧倒的に強いのです。

 

ベストの手段とは!?

ここまで7つの手段を見てきました。

1. 説明/説得
2. 仕組化
3. 命令/強制
4. 賞罰
5. 比較
6. 洗脳
7. 体験

では、どれが正解でしょうか?

答えは、一つで人を変える魔法のような手段は存在しない、です。

人は一度では変わりません。説明を繰り返し、仕組みで担保し、ときに命令や比較を織り交ぜる。そして最終的に「体験」を通じて腹落ちしてもらう。

「社員が動かない」と感じたとき、やるべきことは、あきらめることではなく、7つの手段をどう組み合わせ、どれだけ粘り強く続けられるかが、ポイントとなります。各手段のメリットとデメリットを理解し、あなたの組織にとって一番良い方法を見つけてみてください。

 

 

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