「ばさーるでござーる♪」「ドンタコスったらドンタコス♪」「スコーン、スコーン、コイケヤスコーン♪」「うまいんだな、これが!」
テレビCMから流れるこうした印象的なフレーズ。ある年代以上の方は覚えている方も多いのではないでしょうか?
あるいは「ピタゴラ~スイッチ♪」「アルゴリズム体操~」といったNHKの番組なら、若い人にもなじみがあると思います。
どれも一度耳にすると忘れられない、不思議な吸引力を持っています。
これらを仕掛けたのが、電通出身で、いまは東京藝術大学の名誉教授であるメディアディレクター、佐藤雅彦氏です。広告、テレビ、ゲーム、アートとジャンルを飛び越えて多くのヒット作を生み出してきました。
そして、現在リニューアルオープンした横浜美術館で開催されている「佐藤雅彦展」。入口に大きく掲げられている言葉が「作り方を作る」です。
彼は、クリエーティブの世界で、才能やセンスに頼るだけではなく、「どう作れば人に伝わるのか」というルール自体を設計することで、数々のヒットを繰り返し生み出すことに成功してきました。
これは、アートだけでなく、我々の日常の仕事の中でも考えるべきことと感じました。
「作り方を作る」ってどういうこと?
イメージしやすいように料理を例にしてみます。
レベル1:手順を考えずに作り始める
冷蔵庫の材料を適当に炒めてみる。食べられるけれど、味はバラバラ。
レベル2:手順を考えて作る(または、レシピを見る)
「玉ねぎを切る→炒める→肉を入れる→ルーを加える」というレシピ通りにカレーを作る。安定して美味しい。ただ、その順番になっている背景や理由を理解しているわけではない。
レベル3:おいしいレシピを生み出すためのルールを考える
「どんな具材をどう組み合わせれば美味しくなるか」「味の濃いものはどの順に入れるか」。こうした“レシピを作るための考え方”を設計する。
ほとんどの人はレベル2で止まります。でも佐藤氏がやってきたのはレベル3。つまり、作品そのものを作る前に「どうすれば相手に伝わるか」というレシピの作り方から考えていたということです。言ってみれば、どうしたら食べる人がおいしく感じる料理を作れるのか、という発想です。
例えば、「バザールでござーる」では、語呂とリズムを繰り返すことで、誰もが自然に口ずさみたくなりました。「スコーン」や「ドンタコス」も同じ仕掛けです。これは、偶然ではなく、「人はリズムで覚える」というルールを見つけたて、様々なCMで再現していたということなのです。
つまり彼は、「作品を作る」のではなく、「作品をどう作れば人に届くかという仕組み」を先に考えていた。これが「作り方を作る」の意味です。
ビジネスにどう活かせるか?
さて、ここからが本題です。私たちの仕事に置き換えてみましょう。
我々も日々、提案資料や商品企画、営業戦略、業務改善のフローなど、いろんなアウトプットを作成しています。そのとき、多くは「どう作るか」に意識を向けているはずです。
・「スライドを何枚にまとめよう」
・「顧客課題を整理して、解決策を提示しよう」
・「こんな市場情報をいれよう」
でも、それだけだと属人化します。上手い人が作れば良いものになるけれど、そうでない人がやると質が落ちる。つまり、安定しません。
そこで「作り方を作る」の発想です。たとえば提案資料なら、こういうルールを決めてしまう。
・相手にどんな状態になってほしいのかをまず考える
・どんな案件でも必ず「課題→原因→解決策→効果」の流れで組み立てる
・スライドには「現状」「理想」「差分」「打ち手」を必ず入れる
・事例紹介は「数字」と「ストーリー」をセットで入れる
こんなことをルールにしておけば、誰が作っても最低限の説得力は担保されます。
ルールは、相手が理解しやすく、行動を起こしやすいかという視点で設定されています。
同じことはサービス企画でも言えます。「アイデアを考える」ではなく、「アイデアを考えるためのルール」を共有する。顧客の課題を抽出し、優先度をつけ、小さく検証してから広げる。こういう“企画の作り方”を持っていれば、新しい案件が来てもゼロから悩まなくて済みます。
「作り方を作る」のメリット
整理すると、この考え方のメリットは大きく三つです。
1. 再現性が上がる
属人的なセンス頼みから脱却でき、誰がやっても一定レベルのアウトプットが可能になる。
組織内だけでなく、各個人のアウトプットの再現性、アウトプット品質の安定性もあがる。
2. 育成が早い
新人に「このルールに沿って考えてみて」と渡せば、比較的すぐに実務で動けるようになる。
3. 改善できる
やり方が明文化されているから、「ここを直せばもっと良くなる」と検証と改善ができる。
佐藤氏がCMや番組、ゲームといった異なる分野でヒットを連発できたのも、まさにこのおかげです。偶然のひらめきに頼らず、再現性のある「作り方の作り方」を持っていたからこそ、どんな領域でも結果を出せたのだと思います。
抽象度を上げて手順を考える
センスやひらめきに頼らず、相手に伝わるためのルールを設計する。その発想が、あの数々の名作を支えていたのです。
私たちの仕事も同じです。提案資料の作り方を考えるだけでなく、「相手に刺さるための提案資料作成のルール」を設計する。サービスを考えるだけでなく、「サービス設計の原理原則」を定義する。
少し抽象的に聞こえるかもしれません。でも、この一段上の視点を持つだけで、仕事の再現性や安定感はぐっと高まります。
「作り方を作る」。私たちが日々の仕事で成果を出すための強力なヒントだと感じます。