経営改革プロジェクトやITプロジェクトがうまく進まない、あるいは失敗する——そんなとき、よく聞かれるのが「プロジェクトマネージャーのマネジメントが悪い」「経営層の意思決定が遅い」といった指摘です。
確かに、マネージャーの判断や調整が問われる場面は多々あります。しかし、きちんと管理していたはずなのに、気づけば次々と問題が発生し、どこで何が狂ったのかもわからないまま、軌道修正に追われる——そんな経験がある方も多いでしょう。
私は、プロジェクトが上手くいかない理由は別のところにあると考えています。今回は、プロジェクトの本当の失敗原因と、その対処法について考えてみたいと思います。
プロジェクト失敗の現場で起きている事
プロジェクトがうまく進まないとき、現場ではだいたい次のようなことが起きています。
- 要件がなかなか決まらない、途中で変更が入る
- 関係者が多く、合意形成に時間がかかる
- 外部ベンダーや部門間の調整が難航する
- 誰が何を決めるかが曖昧
- 前提条件が途中で変わる
これらはいずれも、現場に負荷をかけ、手戻りや遅延の原因になります。そして、それらを引き起こしている共通の根本要因が一つあります。
それが「複雑性」です。
複雑性とは何か?
複雑性とは、プロジェクト内に存在する「変数(=選択肢)の多さ」と、それらの「相互依存関係」を指します。
たとえば、「この画面の仕様が決まらないとAPIの設計ができない」「A社の成果物が出ないとB社が作業に入れない」「インフラ構成が確定しないとアプリケーションの設計が進まない」といった状態です。相互または多対多の関係で、しかも関係者やチームをまたいで絡み合うと、プロジェクトは著しく動きにくくなります。
つまり、プロジェクトが失敗に向かう本当の原因は、担当者の能力ではなく、変数が多く、相互に依存しあっている構造そのものにあります。
複雑性を減らすには?
では、この複雑性をどうやって減らすのか?
プロジェクト責任者としてできることは、大きく2つあります。
1. 最初から変数を少なくする
プロジェクト立ち上げ段階で、スコープや対象範囲をあえて絞るという判断が極めて重要です。
たとえば、「まずは一部門だけで先行導入する」「カスタマイズは最低限にとどめる」「XX領域は現行業務を踏襲」など。関係者や検討項目が減れば、依存関係も自ずと減り、合意形成もスムーズになります。
「一括導入のほうが効率的では?」「分割すると手戻りになるのでは?」という意見もあるでしょう。確かに理屈としてはその通りです。しかし、実際にはスコープを広げた結果として混乱が生じ、最終的にはコストも期間も膨らむケースは枚挙にいとまがありません。
2. 未決事項を早期に潰す
変数が多くても、それらを早い段階で確定させていけば、複雑性は大きく抑えられます。問題なのは、決めるべきことが後回しになり、未決事項として溜まっていくことです。
多くのプロジェクトでは「未決事項リスト」が存在していますが、日常業務に追われる中で放置されてしまうことが少なくありません。
ここで重要なのは、単に未決事項を「管理」するのではなく、責任者が思い切って「決めてしまう」こと。しかも、たとえ仮決めでも、間違っていても、一度決めることに意味があります。
決断がなければ、メンバーは「まだ決まっていないから自分の出番ではない」と他人事になります。しかし、「一旦こうする」と決めれば、「それは違うのでは?」という反応が返ってきます。関係者に対し、「1週間以内に異議があれば申し出てください」と期限を区切ってフィードバックを求めるのも有効です。
間違って決めるリスクよりも、決めないことによる停滞のリスクの方がはるかに大きいのです。
責任者でない場合にできること
現場の担当者や中間管理職など、プロジェクト全体を動かす立場にない人でも、できることは確実にあります。
まず、自分の担当領域を、他部門等と依存関係がある部分と無い部分に切り分けることです。依存のない部分は迷わず進め、未決事項は早期に解消する。とにかく先送りしないことが重要です。
そして、依存関係がある場合も、依存する変数の数を減らす工夫が可能です。
たとえば、「選択肢が5つあるが他部署の判断待ち」という状態なら、「この中で現実的な2案に絞って検討しませんか」と提案する。こうして変数を減らすことで、設計や試算のボリュームも減り、先に進める部分が増えていきます。
このように、「変数を減らす」「依存を浅くする」意識を現場レベルで持つだけでも、プロジェクト全体の複雑性を大きく抑えることができます。
複雑性抑制・管理手法を標準化する
プロジェクトの失敗は、誰か一人の責任ではありません。むしろ、複雑な構造を作り、放置することが最大の要因です。
「スケジュール管理」や「ツールの使い方」などのプロジェクト管理手法の前に、複雑性をどう見極め、抑制するかという視点をプロジェクト関係者は最優先で学ぶべきです。
そのためには、複雑性を要素分解し、変数と依存を減らす手法を「プロジェクト計画の標準プロセス」として定義し、組織のナレッジにしていく——それこそが、継続的にプロジェクトを成功に導く鍵といえます。
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