
メグ・ライアンとトム・ハンクスの主演映画
『You’ve Got Mail』を覚えている方は
いらっしゃるでしょうか。
当時(1998年)はまだ珍しかった、
オンライン上で男女が知りあい、
恋に落ちるというストーリーです。
映画のタイトルにもなっている
「You’ve Got Mail」は、
AOLのメール通知です。
その頃、「インターネットといえばAOL」
というほど、多くの人が利用していました。
また、一時期、
情報整理アプリとして圧倒的な人気を誇った
Evernoteを覚えている方も多いでしょう。
「できる人はみんなEvernoteを使っている」
そんな時代もありました。
これらサービスは今どうなっているでしょうか。
もうなくなった?
実は、今でもサービスは続いています。
しかも、AOL、Evernoteだけでなく、
MeetupやVimeoなど、様々なサービスが
同じ会社によって運営されています。
その会社が、
イタリアのベンディングスプーン社です。
この7月、
NASDAQへの上場でも話題になりました。
今回は、この会社のビジネスモデルについて書いてみたいと思います。
プロダクトを作らないSaaS企業
ベンディングスプーンは少し変わった会社です。
普通のSaaS企業は、
自社で新しいサービスを開発し、
それを育てます。
買収をするとしても、
自社製品を補完するプロダクトを買う
ことが一般的です。
しかし、ベンディングスプーンには、
その発想がありません。
自社プロダクトは持っていません。
代わりに、既存のサービス・プロダクトを買う。
Evernote。
AOL。
Meetup。
Vimeo。
ジャンルも利用者もバラバラです。
共通点は一つ。
「多くのユーザーを抱えているが、
成長は止まっているサービス」
であることです。
彼らは、自社プロダクトを育てるのではなく、
そうしたサービスを買収し、
再生することを事業にしています。
「デジタルロールアップ」
と呼ばれるビジネスモデルです。
買っているのはプロダクトではない
最初、私は、
「古いサービスを安く買っているだけ」
の会社かと思いました。
しかし調べていくと、
少し見方が変わりました。
彼らが本当に買っているのは、
ソフトウェアプロダクトではありません。
顧客基盤です。
「オワコン」と言われるサービスでも、
使い続けているユーザーは少なくありません。
(AOLは、現在も3000万人くらいのユーザーがいるとのこと!)
その顧客をゼロから獲得しようとすれば、
莫大な広告費と時間がかかります。
しかし、既に顧客がいるサービスなら、
そのコストは必要ありません。
つまり彼らは、
「ユーザーとの関係性」を買っているのです。
中身は全部作り直す
では、
買収したサービスをそのまま運営するのか?
そうではありません。
利用者が見ている画面やサービスは
できるだけ維持します。
しかし、
その裏側は徹底的に作り直します。
古いコードを書き換え、
システム基盤を共通化し、
運用方法も標準化する。
さらにAIも積極的に活用し、
開発やコード変換の効率を高めています。
ログインや決済、通知など共通化できる機能は
部品として再利用し、
異なるサービスでも同じ仕組みを使う。
その結果、
買収したサービスは収益化されます。
また、サービスが増えても、
運営コストはあまり増えません。
彼ら自身も、自社を
「再生ファンド25%、テック企業75%」
と表現しています。
単なる買収会社ではなく、
圧倒的な技術力によって
事業を再生する会社なのです。
成功を狙うより、成功を育てる
創業者たちは、以前は
自分たちでソフトウェアを開発していましたが、
成功することはありませんでした。
その経験から、
プロダクトが大ヒットするかどうかは
「運」の要素が大きい。
一方で、
事業を効率よく運営し続けることは、
実行力で改善できる
という考え方にたどり着いたと言われています。
だから彼らは、「ヒット」を狙うのではなく、
「すでに価値が証明されているサービスを、
もっと良い形で運営する」ことを選びました。
発想の転換です。
中小企業も学べること
もちろん、中小企業が次々と会社を買収することは簡単ではありません。
しかし、この会社から学べる考え方はあります。
それは、
「顧客獲得」と「価値提供」を
一体で考えないことです。
私たちは、
プロダクトやサービス作った会社が、
顧客を集める
のが当たり前だと思っています。
しかし、本当にそうでしょうか。
例えば、
長年のお客様を持っている会社でも、
自社だけで最適なサービスを提供できるとは
限りません。
であれば、自社より優れた会社と組み、
その会社のサービスを提供した方が、
お客様にとって価値が高い場合もあります。
逆に、
優れたノウハウや運営能力があるものの、
営業や集客が得意ではない会社もあります。
その場合は、自ら顧客を集めるよりも、
顧客基盤を持つ会社のバックエンドとして
価値を提供する方が、
大きな成果を生めるかもしれません。
AIやデジタル技術が進化するほど、
こうした役割分担は容易になっていくでしょう。
ビジネスモデルは、まだ変われる
私はベンディングスプーンを知って、
「こんな発想があるのか」と久しぶりにワクワクしました。
新しい商品を作ることだけが
成長ではありません。
既にある顧客基盤をどう生かすか。
自社で全部やるのではなく、
誰が最も価値を提供できるか。
そう考えることで、
ビジネスモデルにはまだまだ
新しい可能性があると感じました。
中小企業でも、
「自社で顧客を獲得、自社でサービスを提供」
という前提を一度外してみると、
新しいビジネスの形が見えてくるかもしれません。
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