「人手不足で事業を広げられない」
「頼りにしていた部長が辞めてしまって、現場が大混乱……」
こんな相談を、経営者やリーダーの方々からしばしば受けます。
そんなとき、私はこう答えています。
「それ、仕組み化が足りていないかもしれませんね」
すると、多くの場合「仕組み化って、具体的にどういうことなんですか?」と聞かれます。ビジネス本にもよく出てくる言葉ですが、その理解内容は人によってまちまちというのが実態です。
今回は、「仕組み化」について、改めて整理してみたいと思います。(ちょっと堅い話で面白くないかもしれませんが。。)
「仕組み化」の中心にあるのは「標準化」
仕組み化の要となるのが「標準化」です。
標準化とは、業務手順やルールを明文化し、それに従ってメンバーが業務を遂行することを指します。
もっとわかりやすく言えば、「誰がやっても同じように進められる仕事のやり方を、決めておくこと」です。
イメージしやすいのは業務マニュアルでしょう。
たとえば、チェーンレストランなら、
・どんな食材を使うのか
・どの順番で調理するのか
・盛り付けはどの器にどう載せるのか
といったことが細かく決まっています。
事務作業でも同じです。
・どのデータを使って
・どんな形式で加工して
・どんな報告書にするのか
といった「インプット」「処理」「アウトプット」がはっきりしていれば、ある程度は誰でも再現可能になります。
標準化は、複数拠点や複数部署で、同じような業務を行うビジネスでは特に重要です。
・コンビニやファーストフードのように、全国の店舗で同じ品質を保つ必要がある場合
・システム開発のように、類似案件を異なる顧客向けに展開する場合
・グローバル企業で、世界中で同一基準で会計処理をする場合
など、標準化なしには、業務の再現性や品質維持は成り立ちません。
標準化の効果とは?
標準を定めると、以下のような大きなメリットが生まれます。
- 属人化の解消:一部の優秀な人に業務が集中しなくなる
- 人材の多様化が可能に:普通の人でも業務が回せる仕組みができ、人材確保がしやすくなる
- 人件費の最適化:専門家でなくてもこなせるようになるため、相対的に安価な人材を活用できる
- 再現性の向上:どの拠点でも同じ品質でサービスを提供できる
- 事業拡大がしやすい:特定の人に頼らずに展開できるため、スピード感を持って広げられる
- 責任の明確化:ルールに基づく業務運営により、現場への権限移譲がしやすくなる
- 管理の容易さ:ブラックボックスが減り、業務の見える化が進む
これらはすべて、「標準」があるからこそ実現できる効果です。
上記は主に経営者やマネージャーにとってのメリットですが、標準があることで、現場の担当者も「何をすればいいのか」が明確になり、無用な不安や迷いから解放されます。
では、「仕組み化」とは何か?
一言で言えば、「標準を定常的に回す環境整備」のことです。
「標準」は作って終わりではありません。どんなに素晴らしいマニュアルやルールがあっても、それが守られなければ意味がないのです。
現場で標準が守られるためには、「無意識に守っている状況」「守りたくなる環境」「守らざるを得ない環境」をつくることが重要になります。これが仕組み化の本質です。
では、具体的にどんな方法があるでしょうか?
① システムの活用
情報システムを通じて、標準通りにしか仕事ができないようにする。
たとえば、
・決められた手順を踏まないと次のステップに進めない
・入力形式が統一されているため、報告書の形が自動で整う
といった仕組みです。
「このシステムを使えばラクになる」と思わせる設計ができれば、現場も自然と標準を守るようになります。
究極的には、全てシステムで自動化すれば、属人化などというものは発生しません。
② レビューポイントの設定
標準が実際に運用されているかどうかを定期的にチェックする場を設けます。
たとえば、
・毎週の定例ミーティングで、標準に沿ったアウトプットが出ているかを確認
・レビュー担当者を設けて、第三者の目でチェックする
などが有効です。
③ 評価への組み込み
標準を守ることが、組織評価や人事評価に影響する仕組みにしておくことも一案です。
「工夫して成果を出す」ことと同じように、「標準をベースにきちんと仕事を回す」ことも評価されるべきです。
人事評価に反映しないまでも、順守状況が部署ごとなどにモニターされているだけで、一定の強制力が働きます。
④ 標準の継続的な見直し
ビジネス環境は常に変化します。
そのため、標準も一度作って終わりではなく、継続的にアップデートする仕組みが必要です。たとえば、
・ 「標準化委員会」などを定期的に開き、現場の声を反映しながら見直す
・ 問題が起きた時には標準にフィードバックして改善する
こうした継続的な仕掛けが、仕組み化を本物にします。
経営者こそ「仕組み化」に関心を持とう
業務ルールや標準業務、システムなどは、導入しただけでは機能しません。
それを「守らざるを得ない」「守った方がラク」と思える環境を整えることが、真の「仕組み化」です。
仕組み化が進めば、事業は特定の人材に依存せず、再現性をもって回せるようになります。結果として、優秀な人が辞めても動じない、拡大できる強い組織ができあがります。
仕組み化は、経営者自身が高い関心を持ち、旗を振り続けることが重要です。