コラム:「業務プロセス」を蔑ろにする経営者たち

「自分で考えてやれ」
「そんなの考えれば分かるだろ」
「どうやるかではなく、結果が大事だ」

こうした言葉を口にする経営者やリーダーは少なくありません。彼らの多くは、かつて技術で会社を牽引してきた創業者であったり、営業成績トップだった経験を持つ営業部長、いわば“スーパーマン”のような人たちです。

しかし、そうしたスーパーマンが率いる会社や組織が、必ずしも大きく成長しているとは限りません。むしろ、意外なほど成長に苦戦しているケースも見受けられます。

その原因のひとつが、「プロセス軽視」です。

 

プロセスとは?

プロセスとは、業務の「手順」や「流れ」を指します。たとえば法人営業の場合、「見込み客を見つける」「提案する」「受注する」「仕様を決める」「製造する」「納品する」といった一連の流れが、それに該当します。

プロセスには「階層」「粒度」があります。「見込み客を見つける」というプロセスの中にも、「広告を出す」「問い合わせがあった顧客に連絡する」といった、より細かいプロセスが存在します。さらにその下には、「どのメールテンプレートを使うか」「どのタイミングで送信するか」「電話での話し方」といった、更に詳細な手順が積み重なっています。

業務のパフォーマンスや品質は、まさにこうした細部に表れます。まさに「神は細部に宿る」のです。

優れた成果を出す“スーパーマン”たちは、経験を通じて自分なりの「ツボ」を掴み、独自のプロセスを体得しています。しかし、それらは往々にして無意識に行われていたり、あえて他人に共有していなかったりします。

このような状態では、そのプロセスは属人化し、再現性を持ちません。そのスーパーマンが抜けた瞬間に、ノウハウも一緒に失われてしまうのです。

 

プロセス定義の意義

スーパーマンの暗黙知を可視化することも大切ですが、その前提として、まずは標準的なプロセスを明確に定義することが不可欠です。そこには、以下のようなメリットがあります。

メリット1:メンバーが最低限やるべきことが明確になる

たとえば新人に「見込み客を見つけてこい」と言っても、何をすれば良いのか分からず、動けないのは当然です。「この媒体で、こういった属性の顧客に、こういう手段でアプローチする」といった具体的な手順の指示が必要です。

メリット2:役割分担が容易になる

一連の業務には、難易度の高いプロセスと低いプロセスがあります。プロセスを定義しておけば、難しいタスクは経験豊富なメンバーに、定型業務は新人にといった分担がしやすくなります。

メリット3:顧客に説明しやすくなる

無形商材やカスタム対応の多いサービスでは、納品までのプロセスが見えにくいため、顧客に不安を与えやすい傾向があります。業務の進め方が明確になっていれば、顧客に安心感を与えるだけでなく、顧客と自社の役割分担の明確化にもつながり、トラブルの予防になります。

メリット4:進捗管理やパフォーマンス分析ができる

たとえば「集客プロセス」は順調に進んでいるけれど、後続の「受注プロセス」の数字が振るわないという場合、受注業務のやり方に問題があると特定でき、ピンポイントで対策を打てます。

メリット5:業務効率化のヒントが得られる

プロセスを可視化し、第三者が見ると、非効率な作業が判明することがあります。たとえば、すでにある情報を手作業で集めていたり、ツールを使えば一瞬で済む処理が人手に頼っていたり。業務プロセスが見える化されていれば、現場改善や抜本的な業務改革も、迅速に実行できるのです。

このように、標準的なプロセスを定義したうえで、スーパーマンの技術やノウハウを加味していけば、組織全体としてのパフォーマンスはさらに高まります。

 

プロセス定義のポイント

プロセス定義や業務の標準化において、ありがちな失敗は、「目的もなく、すべての業務を網羅的に定義しようとすること」です。

プロセスを詳細に定義する作業は、想像以上に手間と時間がかかります。時間をかけて作成しても、現場で使われなければ意味がありません。

重要なのは、業へのインパクトが大きい部分を優先的に定義することです。また、プロセスの粒度(細かさ)も一律ではなく、状況に応じて柔軟に変えることが大切です。

たとえば、トラブルの原因になりやすい工程や、属人化している工程については細かく定義し、それ以外は概要レベルにとどめるなど、メリハリをつけるべきです。

プロセス定義を自己目的化せず、実効性と現場での活用を意識することが何より重要です。

 

スーパーマンに頼らない組織へ

日本ハムファイターズの新庄剛志監督が、あるインタビューでこんな話をしていました。

「自分は守備の天才だったから、人に教えるのは苦手。だから、努力して一流になった元選手のコーチの方が、言語化して論理的に教えられる。」

これはまさに、企業運営にも通じる考え方です。

スーパーマンを100人集めることは、現実的ではありません。だからこそ、業務を分解・可視化・言語化し、平均的な人材でも成果を出せるように仕組みを整えること。それこそが、組織を成長させる最も確実な道です。

 

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