コラム:「自分の仕事と、他人の仕事の間に線を引く」のはダメなこと?

うちのメンバーは、どうもお客さんにサービスしすぎる。お客さんの評価は高いが、残業がかさみ、結局赤字になる」

ある経営者から、そんな嘆きを聞きました。

一方で別の現場では、こんな声も聞こえてきます。

「最近の若手は、『それは私の仕事ではありません』と、あっさり割り切ってしまう

正反対に見えるこの2つのケース。どちらの考えが間違っているのでしょうか? それともどちらが正しくて、どちらが間違っているのでしょうか。

結論から言うと、どちらも正しいかもしれないし、どちらも間違っているかもしれません。「線がどこに引かれているか」で答えは変わるからです。

つまり、仕事の境界線の位置が曖昧だと、何が過剰サービスなのか、どこまでが極端な割り切りなのか判断がつかず、現場に混乱をもたらすということなのです。

 

「線」とは?

この線とは、他人と自分の仕事の境界のことです。

一般的には、「線を引く人」は冷たい、非協力的という印象を持たれがちでしょう。逆に、境界を超えて先回りして動く人は「気が利く」「親切な人」と評価されるかもしれません。

しかし、そうした善意の越境が、職場を静かに壊していく可能性があります。

本来の担当ではない仕事を「つい」引き受けると、手抜きや誤解が起こりがちです。責任感が薄いために品質が下がるのです。さらに厄介なのは、相手がその行為を当然と思い始めたときです。やってもらえないと不満に変わる。やった側は「なぜ感謝されない?」とモヤモヤを抱える。こんな地味で見過ごされがちな状態が、組織内の信頼関係を静かに蝕みます。

また、断れない人ほど、自分の首を絞める羽目になります。最初は「善意」だったものが、いつの間にか「やって当然」になり、抜け出せなくなる。いわば、仕事の境界を曖昧にすることは、自分の心身とチームの健全性を危険にさらす行為といえます。

だからこそ、「線を引く」ことは必要不可欠なのです。

 

2種類の「線」

仕事の線引きには、2つの種類がああります。「上下を分ける線」と「左右を分ける線」です。

上下を分ける線──責任と権限の境界

まず、「上下の線」とは、上司と部下などの間にある責任と権限の分担を指します。

たいていの仕事には、「計画」「実行」「確認・承認」という3つのステップがあります。それを誰が担当するのか。この線が曖昧だと、意思決定が遅れ、成果物の質も安定しません。

一般的には、「計画」と「承認」は上司、「実行」は部下とされることが多いですが、それがすべてではありません。メンバーの経験値や業務の特性に応じて、「詳細計画はメンバーが立てる」「最終確認はリーダーが行う」など、柔軟に分けることも可能です。

重要なのは、誰が何をするかを最初から明文化しておくこと。責任が宙に浮いた状態が、もっとも危険です。

 

左右を分ける線──仕事と仕事の境界

次に、「左右の線」。これは、同じレイヤーの仕事の担当範囲のことを指します。

例えば、同じ部署のAさんとBさんの分担、営業部門と開発部門の分担、あるいは自社と顧客の役割分担。これらの線は、事前に、明確に決めておく必要があります。

部門やメンバー間であれば、上司や経営者が主導して定義します。顧客とのやりとりであれば、契約書に落とし込むのが基本です。あいまいな言葉で「できるだけ柔軟に対応します」と書くことは、地雷を埋めているようなものです。

もちろん、突発的に未定義の仕事が発生することもあります。そうした例外に備えて、対応ルール(誰が判断するか、どう協議するか)まで整えておくのがプロの仕事といえるでしょう。

 

マネージャーはどうすべきか?

マネージャーの仕事は、部下に思いつきで指示や命令をすることではありません。
線を引くこと。そして、その線を「見える化」することです。

部下には、「線」のありか、つまり何が自分の責任範囲なのかをはっきりと伝えます。やるべきこと・やらなくてよいことを理解させます。境界が明確になれば、自信を持って「断る」こともできるようになるでしょう。

とはいえ、すべてを線引きで割り切るのも非現実的です。だからこそ、「この業務は本来範囲外だが、チーム全体の利益のために今は協力する」といった“戦略的越境”を許容するルールも、セットで整備できるのは理想でしょう。

役割分担表、部門ミッション、契約書──これらはどこの組織にもあるでしょう。しかし、「境界線を引くための道具」として、意識して活用されているケースは少ないように思えます。

線を引くことは、冷たい行為ではありません。むしろ、職場を健全に保つための、「メカニズム」と考えるべきでしょう。

 

 

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