コラム:「なぜを5回繰り返しても原因にたどり着かない」のはなぜ? 質問の質

「業務課題を出せとメンバーに言っても、些末な課題しか出てこないんですよ

業務改革の現場で、改革リーダーの方からよく聞く言葉です。現場の担当者に“現状の業務課題”についてヒアリングを行うと、「システムの使い勝手が悪い」「リモート環境が不便」といった小さな困りごとや、逆に「人手不足」「景気が悪い」といった自社では対処が難しい外的要因が挙がるようなことがしばしばあります。

「根本原因を見つけるには“なぜ”を5回繰り返せ」。これはトヨタが提唱した有名な問題解決手法ですが、これを現場で実際に試してみると、あまりうまくいかないケースも多いのではないでしょうか?

たとえば、こんなやり取りです。

「売上が伸びないのはなぜ?」
→「提案がお客さんに刺さっていないから」
→「なぜ刺さらない?」
→「営業が刺さる提案を作れないから」
→「なぜ作れない?」
→「スキルがないから」
→「なぜスキルがない?」
→「採用で良い人が取れないから」

……といった具合に、どこかフワッとしていて、上滑りしている印象を受けるのではないでしょうか。

こうした課題分析がうまくいかない背景には、大きく分けて2つの理由があります。
ひとつは「課題の定義」、もうひとつは「質問の質」です。

 

まずは、「ゴール」を問う

課題とは、理想(あるべき姿)と現実(現状)のギャップから生まれるものです。したがって、ゴールが明確でなければ、どこにズレがあるのかを把握することはできません。

たとえば、「売上が悪い」のはなぜかと原因分析に取り掛かる前に、まず確認すべきは「セグメントごとの売上目標はいくらだったのか?」「その数字の前提は何だったのか?」「どの部門が、どのような活動をする想定だったのか?」といったゴールを明確にする問いです。

それが明らかになった初めて、「実際の結果はどうだったのか?」「目標とのズレはどこで生じたのか?」というギャップを洗い出す問いに進みます。

この2ステップを踏まずに「なぜ?」を繰り返しても、本質にはなかなか辿り着けません。

特に、業務の在り方そのものを見直す「業務改革」のような取り組みにおいては、現場担当者が自らゴールを設定することは困難です。なぜなら、彼らのミッションは、与えられた環境下で最大のパフォーマンスを発揮することであり、理想像を描くことではないからです。そこは経営者が「あるべき姿」を示して初めて、現場は現状とのギャップを認識できるのです。

 

「なぜ」質問 は避ける

では、どうすれば良い問いを立てられるのでしょうか。いくつかのポイントをご紹介します。

  • 定量的に聞く

「広告の効果がなかった」という曖昧な表現ではなく、「クリック率は何%を想定し、実際は何%だったのか?」「資料請求数は何件か?」「前年比では何%の変動があったか?」といった数字で答えられる問いに変えます。

 

  • 行動レベルで聞く

「売上が上がらなかった」といった結果だけではなく、「何件アポイントを取ったのか?」「商談の成約は何件か?」「訪問先の優先順位はどういう順番で決めたか?」など、具体的な行動を確認する問いを立てます。

 

  • 「なぜ」を避け、「何・いつ・誰・いくつ」で聞く

「なぜ?」という問いは、ことばの特性上、思考や感情を引き出すもので、どうしても主観的な回答になりがちです。そのため、「なぜ」質問は極力避け、「何を?」「いつ?」「誰が?」「いくつ?」といった事実に基づく質問に置き換えることが重要です。

 

  • 構造を理解し、全体を網羅的に把握する

原因は局所だけを見ていてもつかめません。前後の工程や、多面的な指標なども合わせて現状を網羅的に確認する必要があるでしょう。それにより、状況を構造的にとらえ、本質的な課題に迫ることが可能になります。

 

  • 俯瞰して論点を絞る

前のポイントと若干矛盾しますが、そうはいってもすべての項目を確認するのは現実的ではありません。だからこそ、「全体を俯瞰し、最もインパクトが大きそうな部分に絞って掘り下げる」ことが重要です。例えば、売上額、人数、コスト、リードタイムなどの大きい部分から見ていくことにより、効率よく本質に迫ることができます。

 

問いの質が、仕事の質を決める

仕事とは、広義には誰かの「課題解決」をすることです。そうであるなら、問いの質を上げることは、仕事の質そのものを高めることに他なりません。そしてこれは、センスではなく、訓練や意識づけによって習得できるスキルです。

「この問いは、ゴールと現状のギャップを明らかにするものになっているか?」
「感覚ではなく、行動や数字を問うものになっているか?」

自分の問いの質を見直すことで、仕事の質を上げられるかもしれません。

 

 

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