「その提案、間違ってはいない。でも、なぜか刺さらない。」
論理的には正しい提案書。相手の課題にもマッチしている。それなのに、反応が鈍い。決裁者の表情が曇り、現場のトーンが下がっていく――。
多くの皆さんがそんな経験をお持ちではないでしょうか?
B to Cの世界では、「機能ではなく、人の願望に訴えよ」とよく言われます。たとえば、健康サプリであれば「L-カルニチン配合」といった成分の説明ではなく、「飲むだけで痩せる」といった「願望」に訴える方が効果的だとされます。
一方、B to Bでは「論理と合理性が重視される」と思われがちです。しかし、B to Bでも実は「感情」や「願望」が意思決定に大きな影響を与えているのです。
今回は、B to Bにおける「顧客の願望」に焦点を当て、そのの正体と対応方法について考えてみます。
B2Bの「顧客」
B2Bビジネスにおいては、「顧客」といっても一枚岩ではありません。複数のレイヤーが関与しており、それぞれに異なる視点と関心があります。
たとえば、新しいシステムを提案する場合、関わるのは次のような人たちです。
- 経営者: 売上拡大、コスト削減、将来性といった経営的視点
- ミドルマネージャー: 部門成績、人材マネジメント、部門間調整など
- 現場担当者: 日々の業務効率、操作性、負荷の増減といった実務視点
これらは、それぞれのレイヤーにおける関心や課題です。
しかし、これらはあくまで「建前」としての課題にすぎません。実際に意思決定を左右するのは、その奥にある「本音の願望」なのです。
本音の願望
では、「本音の願望」とはどんなものでしょう?
経営者の本音
- 社員や業界から「先見の明がある」と思われたい
- 上場し一流経営者の仲間入りをしたい
- 自分の代で会社を飛躍させたい (サラリーマン社長、二代目社長)
- 後継者や社会に自身の「足跡」を残したい
経営者は表向きには数字を語りますが、内心では「尊敬されたい」「レガシーを残したい」といった個人的な欲求を強く持っているものです。
ミドルマネージャーの本音
- 面倒なことには巻き込まれたくない
- 何かあったときに自分が責任を問われるのは避けたい
- 大きなプロジェクトを成功させ会社から評価されたい
- 出世競争に勝ち残りたい
新しい取り組みはリスクと表裏一体です。失敗すれば自分の責任となり、うまくいっても功績が他人に取られる可能性すらあります。「ババは引きたくない」、一方で「上司からも部下からも承認されたい」という損失回避と野望という複雑な感情を持っています。
現場担当者の本音
- できれば業務を楽にしたい
- よくわからないものには触れたくない
- 自分主導で改善を実現すれば評価されたい
- 変化によって自分の仕事がなくなるのは困る
現場の納得が得られなければ、どんなプロジェクトも前に進みません。しかし、現場は「変わりたくない」「面倒は避けたい」という現状維持思考が大勢を占めているのが一般的です。
提案前に、主要関係者と会話する機会を多く作り、建前としての課題だけなく、本音の把握に努めることが極めて重要でしょう。
「ストーリー」と「信頼」で感情を動かす
こうした本音の願望に訴えかけるには、単なるスペックや数字だけでは不十分です。「感情を動かす要素」が必要になります。
その一つが「ストーリー」です。
たとえば、自社がどのような思いでこの製品を立ち上げたのか、あるいは現在の成功に至るまでにどのような困難を乗り越えてきたのか――。
こうしたストーリーは、相手の共感を誘い、信頼感と期待感を与えることができます。
さらに、実際の成功事例や他社での導入実績は、「この会社に任せて大丈夫だ」と感じてもらうための「信頼構築」に大きく貢献します。特にB2Bでは、相手が感じる“安心感”こそが契約の決め手となります。
>「この仕組みを導入したことで、1ヶ月後には現場の残業が30%減りました。“もっと早くやっておけばよかった”という声も出ています。」
レイヤーごとの願望に寄り添う提案
B2Bの営業・提案活動では、当然ながら「意思決定者にフォーカスする」のが基本です。しかし実際には、最初の接点が現場担当者であるケースや、ミドルマネージャーの協力がなければ稟議が進まないケースも多くあります。そのため、各レイヤーごとに訴求要素を変えて提案を行うことが成功のポイントとなります。
その相手の立場や役割だけでなく、相手のの感情や本音に配慮した提案ができれば、選ばれる確率は格段に高まります。そして、そのとき競合との差を生むのは、「価格」や「機能」ではなく、「共感」と「信頼」です。