「社内でデジタル人材を育成します」
「全社員にAI研修を実施します」
最近、こんな言葉をあちこちで目にします。
IT企業なら違和感はありませんが、一般の非IT企業までが一律にこうした取り組みを始める様子には、どこかモヤモヤしたものを感じてしまいます。
AIなどが進化する現在、業務をデジタル化すること自体の必要性は議論の余地がありません。しかし、「とりあえず研修」といったアプローチに、どうしても雑さを感じてしまうのです。今回はそんな“デジタル人材”という言葉に潜む違和感について、少し考えてみたいと思います。
「研修」で”デジタル人材”は育たない
「デジタル」と一口に言っても、その領域は非常に広範です。ネットワークやサーバーのようなインフラ、OSやオフィスソフト、顧客向けのECサイト、会計・物流の業務システム、データ分析などの情報系…。企業には多種多様なシステムが存在し、それぞれに必要な知識も大きく異なります。
さらに求められるスキルレベルも、「使える」「概念だけ知っている」「自分で作れる」などさまざまです。
この状況で、全社員に一律の研修を行い、“デジタル人材化”を目指すというのは、意味がありません。無駄です。かといって、業務別・スキル別にカスタマイズした研修を社内で個別に提供するとなると、今度はあまりに膨大になりすぎて現実的ではありません。また、技術は日々進化しており、学んだ知識は陳腐します。
結局のところ現実的なのは、業務単位で必要なデジタル化・人材育成・スキル研修を進めていくのが最も効率的かと効果的といえます。
しかし、それでは今と変わらないのではという批判もでるでしょう。
「現場に任せる」だけでは進まない
では、業務のデジタル化を本当に進めたいとき、何をすべきなのでしょうか?
現場の担当者にとっては、与えらえれた日々の業務を丁寧にこなすことがまず最優先です。「デジタル化が重要だ」というお題目を唱えられても、それは自分のミッションではありませんし、追加のタスクを敢えて拾う可能性は低いでしょう。担当者が自主的にデジタル化を推進することは難しいと言わざるを得ません。
したがって、上司の関わりが非常に重要です。業務負荷の見直しやチームメンバーとの調整など、「デジタル化に取り組める環境」を用意することです。環境さえ整えば、担当者は自分の業務をデジタル化することを“本業”として取り組めるようになります。人は必要があれば学びます。社内研修がなくても、今はオンライン講座や外部の専門会社など、学習機会はいくらでもあります。
デジタル化の本丸は「現場」ではなく「経営者」
では、上司自身はどうやってデジタルの知識やマインドを身につければいいのでしょうか?
答えはシンプルです。さらにその上司――つまり経営層が、方向性を示すことです。
この段階になると、話は「ITツールの導入」では済みません。業務全体を見直し、組織構造まで変えていく必要が出てきます。つまり、単なるデジタル化ではなく、DX化です。D(デジタル)よりもX(トランスフォーメーション=変革)に重きが置かれるということです。
たとえば、現場レベルのデジタル化は、分析専用ツールを入れたり、データ入力を自動化したり、議事録作成をAIに任せたりといった“点”の取り組みです。一方、マネージャー層に求められるのは、業務プロセス全体を再設計し、場合によっては他部署とも連携しながら“面”での改革を実行することになります。
そしてこのような改革は、経営層の理解と指示がなければ、まず前に進みません。
「デジタル人材育成」の正体とは
結局のところ、デジタル化やDXは、経営の仕事です。
経営者自身がコードを書ける必要はありません。でも、テクノロジーの流れを理解し、自社にどう活かすかを常に考え続け、適用に積極的な姿勢を示すこと。そして、実際に試行錯誤に関わり続けることです。たとえ上手くいかないことがあったしても多くの学びがあるはずです。その経験が組織全体の“変化に強い体質”を育てます。継続的な改革マインドを持たせることが、デジタル人材育成の本質といえるでしょう。