コラム:ERPに関する経営者の5つの誤解

ERP(パッケージ型統合基幹情報システム)というものが誕生して30年ほど経っているでしょうか。日本でも大手企業を中心に海外製のERP、中小でも国産のERPが導入されています。しかし、「ERPプロジェクトが炎上した」、「導入に費用をかけ過ぎた」、「期待した効果が出ない」というケースがいまだ後を絶ちません。最近私もERPのトラブルに関する相談を複数いただきました。20年以上ERP導入の現場に関わってきましたが、失敗にはいくつかの共通点があると考えています。今回はそんなERP導入の失敗原因のひとつについて書いてみたいと思います。

失敗にはいくつかありますが以下が代表的なものではないでしょうか。①導入プロジェクトの期間や費用が予算をオーバーした、②稼働後に大きなトラブルが発生した、③想定していた効果が出ない。こうしたことには様々な理由はあると思いますが、そのひとつは「経営者のERPについての誤解」です。その代表的な5つの誤解について整理してみました。

 

1.Fit to Standard についての誤解
Fit to Standard=標準機能に合わせれば、追加開発(アドオン)が不要なので、開発・保守費用を抑えられる。

これはERPプロジェクトの目標としてはしばしば使われることばです。これ自体は全く正しいです。しかし、理解されていなことがあります。それは、”標準”機能は数えきれないほど存在し、その機能の組み合わせで構成される業務プロセスは無限に存在するということです。導入時には、自社のすべての業務プロセス&パターンについて、どの標準機能をどう組み合わせて利用するのかを決定する必要があります。時間と根気のいる仕事です。

その組み合わせの決定を支援してくれるのが、ERPコンサルといわれる人たちですが、その単価が高いことはご承知の通りです。にもかかわらず、彼らも膨大な機能のすべてを把握している訳ではなく、機能調査や企業の業務との整合性などを確認すると時間がかかります。ビジネスが複雑またはパターンが多ければ多いほど、標準機能での実現方法の検討に時間がかかります。結果としてFit to Standardにしたにも関わらず、プロジェクト期間やコストが膨らむのです。

 

2.ERPを入れると業務が効率化される/削減される という誤解
これはほぼ間違いです。ERPは、販売、製造、物流、在庫、購買、会計 といった企業の基幹業務といわれる範囲をカバーしています。30年前ならいざ知らず、ERPを導入するような規模の企業のこうした業務は、基本的にすでにシステム上で行われています。更に基幹業務であるが故に、大きく変わることはないのです。

例えば、「お客さんから注文を受け、在庫を引き当てて、納品する」といった業務は新システムでも不変でしょう。もしかしたら、以前は存在しなかったEC販売というプロセスが加わるようなことがあるかもしれませんが、全体から見れば小さな変化といえます。業務をシステムに合わせろ、つまりFit to Standardしろ、という掛け声はあっても、実際には大きく変えられない業務が多く、既存業務を標準機能で再現するのが実態となるのです。

 

3.業務が高度化するという誤解
削減できないなら、高度化するのではないか? 高度化とは、品質が上るとか、最適化するとか、経営や業務を定量的に把握しやすくなるというようなことです。
これも間違いと言っていいでしょう。しかしやろうと思えば、完璧とはいえないまでも今のシステムできるはずです。やろうとしない企業はシステムが変わってもやらないですし、逆に今やっている会社は、新しいシステムを使うことで、より高度なことができようになると言えます。企業の姿勢次第といえます。

 

4.システム費用が下がるという誤解
これは考え方によるかもしれません。ERPと同じ機能をゼロからオリジナルで作ろうと思ったら、膨大な費用が掛かることは間違いありません。稼働後の運用やメンテナンスについても、オリジナル仕様であるが故負荷が高くなると考えられます。ただ、パッケージによっては、ライセンス費用・保守費用が高額になります。また、仕様変更行うたびに高いコンサル費用が発生します。一方で、グローバルで利用する企業にとっては、スケールメリットを享受できますし、また”共通言語”としての役割も果たしてくれるため、コストが下がるケースもあるでしょう。

 

5.柔軟性が上がる という誤解
ERPは標準機能の組合わせを変えるだけで業務をすぐに変更できる、最新のプロセスが実装されているのでそれをすぐに採用できる という発想です。
業務機能としては、製品にもよるでしょうが、ERPの標準機能を使えばほぼどんな業務プロセスでも実現可能です。しかし、実際問題としては、基幹業務の特性上そうそう簡単に業務は変えられないことが大半です。逆にシステムに設定してしまったが故に、非効率なプロセスが固定してしまう可能性もあります。システム構造としても、すべての機能およびデータベースが一体化しており、一部の業務領域だけを切り離し、ベターなシステムに差し替えるのは難しいのです。

 

なぜ、こうした誤解が生まれてしまうのでしょうか?
現場のシステム部門はこうした現実を知っています。しかし、高額のシステム投資への承認を経営者から得るためには効果を提示しなければなりません。したがって、無理やり効果(定量、定性(明るい未来))をひねり出すことも少なくなくありません。経営者がシステムに明るくないことも手伝い、そうした現実が説明されずに、粉飾気味の投資対効果だけが答申され、一人歩きすることになります。

 

では、経営者はERPをどう考えるべきなのでしょうか?
基本的には、Windowsみたいなものだと考えるのが一番正確でしょう。「ないと困る」「ゼロから同じのは作るのは困難」「デファクトスタンダートである」「事実上、代替がない(特に大企業向けの製品では選択肢が極めて限定的)」「システムそのものが価値を生むものではない」ということです。過大期待も過小評価もしないことです。

ERPの最大のメリットは、海外拠点・ループ会社なども含めた企業活動のデータが(リアルタイムに)一元管理できることです。したがって、ERP導入の成否は、このメリットを生かせるかどうか次第と言えます。この目的を達成するためにどうするかという視点でERPの使い方、プロジェクトの進め方を再考する必要があります。

(どうすれば、上手く導入できるかについては、別の機会に整理してみたいと思います。)

 

 

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