コラム:グローバルビジネスは、文章化に始まり、文章化に終わる

グローバルビジネスの重要性が叫ばれて久しい。官民ともに「グローバル人材を育てる」「グローバルビジネスを推進する」といったスローガンが掲げられている。しかし、グローバルビジネスと一口に言っても、その範囲は非常に広く、単純に語ることは難しい。ウォールストリートでM&Aの交渉を行うこともグローバルビジネスであり、アラブの石油王と投資の話をするのもそうである。また、未開の地で農産物の仕入れ交渉をするのも同様にグローバルビジネスと言える。

私は、そのようなエクストリームなグローバルビジネスの経験はないが、長年外資系企業で働き、クライアントや社内の外国人メンバーと協働する機会は多かった。また、海外の大学にいた時も、世界中から集まった同級生と共に学んでいた。そうした一見平和な日常レベルでも、多様なバックグラウンドを持つ人々と働くこと、分かり合うことはは決して簡単ではなかった。

 

まず、多様性、つまり違いが何から生まれるか整理してみる。

最大の理由は言葉である自分が外国語を話す場合はもちろん、相手が日本語を外国語として話す場合でも、母国語の同士の会話の何倍も意思疎通は難しい。また、双方が相手の言葉を理解しない場合には、お互いつたない外国語(たいていは英語)での会話となる。多言語の人々が集まる会議では、基本的に英語が使われることが多い。

 

次に、文化的な違いがある文化という言葉は抽象的だが、具体的に言えば、以下のようなことではないかと考えている。

  • コミュニケーションスタイル(直接的/間接的、形式的/カジュアル)
  • 時間感覚(正確さ)
  • 意思決定方法(合意型/個人権限移譲型)
  • 人間関係の距離感(上司と部下、同僚との関係)
  • 物理的感覚(熱い寒い、近い遠い)
  • 仕事観(仕事へのコミットメントレベル、オンオフの考え方)
  • 言葉の前提(たとえば「自分は、XXができる」といった時の「できる」の定義)

 

異文化間コミュニケーションという学問分野が存在するほど、奥の深いテーマである。相手をリスペクトすること、相手の文化を理解すること、柔軟性を持って接するなどマインド的なことは非常に重要である。しかし、日々日々のビジネスということに限って言えば、結論はシンプルで、「文章化」に尽きると考えている。口頭での会話に頼らず、文字化・文章化による確認である。言った言わないというリスクは、日本人同士の場合の数倍にもなるからだ。

 

ビジネスコミュニケーションの大半は、打ち合わせもしくはメールで行われる。その際に抑えるべき「文章化」のポイントをいくつか示す。

  • 事前に、打ち合わせのゴールやアジェンダを準備し、共有する。
  • その場でメモを作成し、参加者と確認する。プロジェクターがあれば、投影しながらメモを作成するのが効果的である。
  • 内容が意見表明や事実説明の場合、その内容と発言者を記録する。
  • TODOや指示の場合は、5W1Hを明確に記載する。誰が、何を、いつまでに、どこで、どのように行うかを具体的に書き、背景説明も付け加えると誤解を防げる。TODOフォーマットを活用するのも一つの方法である。
  • 文章は構造化を心掛け、主語や時制、事実と意見・推測を明確に区別する。
  • 口頭でのコミュニケーションを好む人々も多いが、文章化を怠らないことが重要である。
  • 打ち合わせ後には、速やかにメモを参加者に送付し、誤解があれば修正コメントをもらう。
  • 仮に、相手がメモを作成している場合、わからない表現があれば速やかに解決する。恥ずかしがる必要はない。
  • 相手が日本語を話す場合でも、油断して文章化を怠らない。打ち合わせ中は理解しているように見えても、実際には理解していないことが多い。

 

このように「文章化」を徹底することで、認識の齟齬によるビジネスリスクは大幅に軽減できるはずである。しかし、それでも完璧ではないので、時間的な余裕を持つなどのリスクヘッジも必要である。

外国人がダメなのではなく、ただ違うだけである。相手も「日本人ってXXX…」と思っているのだから、お互い様である。よく考えると、日本人同士でも同じようなことは起きているのではないだろうか? 日頃から上記のような「文章化」を心掛けてみてはいかがだろうか?