コラム:3つの「標準化」と牛丼

コンサルティングの仕事を長く続けているが、ほとんどの企業が「標準化によって業務を効率化する」といった経営目標を掲げている。もちろんこれは間違った方向性ではない。しかし、標準化の真の意味やメリットを理解して使っている人がどれだけいるかは疑問を抱く時がある。標準化とは何か? そのメリットとは何か? 今回は、「標準化」特に、業務の標準化について改めて整理してみたい。

 

標準化には3つの種類がある。アウトプットの標準化、プロセスの標準化、インプットの標準化である。どれかひとつだけのこともあるし、全部の場合もある。

標準化とは?

標準化とは、業務や製品仕様を複数の関係者間で統一化・共通化することである。業務の場合、作業工程や手順を統一することで、店舗や拠点が異なっても同じ業務が実施できるようになる。製品仕様においては、異なる企業の製品間で同じ部品を共通して使用できるようにすることである。電気製品のコンセント仕様やIT機器のUSB端子の仕様などは、標準化の典型例と言える。

 

標準化のメリット・デメリット

業務を標準化することで、複数の店舗や拠点間で同じ水準の業務を行うことができるようになる。これにより、本社が求める業務品質や生産性を確保し、また均質な顧客サービスを実現できるようになる。しかし、標準化には現行の業務を「標準」に合わせて根本的に変える必要があるため、これに追従できない社員や反発する社員が出てくることもある。また、これまでの強みが失われたり、業務が混乱したりして、一時的に業績が低下する可能性もある。「変える」ことは、想像以上に困難を伴う。

 

標準化の対象

では、標準化の対象とは何か? 牛丼屋を例に考えてみる。「牛丼」は吉野家で食べても松屋で食べても、少なくとも日本人には「牛丼」の共通認識がある。これは、商品の概念レベルで標準化がなされている状態といえる。しかし、吉野家と松屋の牛丼には明らかに違いがある。これはレシピや作業手順が異なるためだ。一方、吉野家の各店舗間ではほとんど違いがない。レシピや作業手順が標準化されている、いわゆるマニュアルが存在するからである。

 

では、レシピや作業手順を標準化すれば同じ味が出せるのか?そうではない。材料が異なれば味も異なる。牛肉や醤油といった基本的な材料にも様々な種類が存在することはご存知の通りである。チェーン店では、材料も標準化されたものを使用するため、均一な味が保たれる。また、調理人のスキルによっては、いくら同じ材料を使い、同じ手順を踏んでも同じ味にはならない。そのため、チェーン店ではセントラルキッチンを導入したり自動化を進めることで、スキルによるばらつきを防いでいるのである。

 

牛丼屋の例における「商品」の標準化は「アウトプット」の標準化という事ができる。「レシピや工程」の標準化は「プロセス」の標準化であり、「材料やスキル」の標準化はインプット」の標準化である。

 

業務の標準化を考える際には、上記の「アウトプット」「プロセス」「インプット」の3つの標準化を意識して考えると良い。理想的には、これら3つすべてを標準化するのが望ましいが、それだけ難易度は高くなる。標準化自体を目的化してしまうと、不要な困難に直面することになる。

そこで、スキルと専門性のある要員を十分に確保できる場合は、アウトプットだけを標準化し、その具体的な作業手順は担当者に任せるという方法が考えられる。反対に、多拠点展開を目指しどの拠点でも誰でも一定レベルの業務を行えるようにするためには、プロセスの標準化は欠かせない。また、段階的に標準化していくというアプローチも一考である。まずは自社業務の実情と標準化の目的を照らし合わせて、どのレベルの標準化が必要かを見極めることが重要である。

 

上手な標準化は、企業の抜本的な成長のエンジンになる。みなさんの会社でも標準化のアプローチを再検討してみたらどうだろうか?

 

 

 

補足:情報システムの場合

情報システムの分野では、帳票やレポート(およびそこに表示される情報)をアウトプット、その帳票やレポートを作成する処理をプロセス、その処理の元となるデータをインプットと考える。グローバルに多拠点展開するシステムを導入する場合、すべてを標準化するのは極めて大変である。目的に応じて標準化のレベルを選択するのが良い。